インタラクティブなメディアアート作品は、単純に言ってしまえば
一方、グラフィカルインタフェースをもつ 計算機プログラムでも基本的に同じようなループが繰り返されます。 アート作品と異なり、 一般的な計算機では 入力装置としてマウスやキーボード/出力装置としてビットマップディスプレイが 使われるのが普通でしたが、 最近はユーザがより直感的に計算機データを扱うことができるようにするために、 これまでと違った入出力装置や効果を使う研究が盛んになっています。 たとえば、 インタラクティブに条件を変えながら計算結果をユーザにわかりやすく表示する 情報視覚化の研究や、 紙/机/ペンのようなごく普通の文房具を計算機の入出力装置として使用する 実世界インタフェースの研究が注目を集めていますが、 このような新しいインタフェースシステムでは、 従来とは異なる入出力装置や手法が使われることが多いようです。 この結果、 よくできた情報視覚化システムや実世界インタフェースシステムは メディアアート作品にだんだん近くなるようですし、 メディアアーチストの作った視覚化手法が 計算機アプリケーションとして有用であったり、 インタフェース関連の研究がメディアアートの要素として使われたり することも多くなってきています。
上図は、 センソリウムというグループで活動をしている西村佳哲氏の Breathing Earthという作品です。 世界各地で発生する地震を 大きさに応じてリアルタイムに地球表面上の泡のように 表現したものです。 普通のコンピュータ技術者ならば 地震データを視覚化するのにこんな手法があるとは思いつかないでしょうが、 メディアアーティストの手にかかればこのような面白い表現も 可能だということで 情報視覚化の手法のひとつとして注目されます。
上図は、 CMU(Carnegie Mellon University)の石崎豪氏による 「踊る文字列」(Kinetic Typography)です。 紙面ではよくわかりませんが、 "Oh, Boy! ..."という文字列がアニメーションで踊るように 表示されるというものです。 情報視覚化技術は普通は 複雑なデータ構造をわかりやすく表現する ために使われますが、テキストのような単純なデータを 面白く表現する視覚化する手法の一例になっています。
上図は、
IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)の関口敦仁氏が
キヤノンの文化支援活動「アートラボ」と協力して作成した
「分離する身体」の一部です。
キヤノンの技術者が作成した立方体の入力装置が人体模型の左右に
取り付けられており、
立方体の各面を手で押したりひねったりすることにより
仮想立体を変形させることができるようになっています。
3次元モデリングのための特殊な入出力装置は色々なものが考えられて
いますが、この装置は関口氏の作品のために新しく開発されたもので、
面上に沢山並べた圧力センサを用いて、
押すだけでなく「ねじり」や「ひっぱり」なども表現できるようになっています。
上図は、 メディアアーティストの岩井俊雄氏が エム・アール・システム研究所在籍中に開発した Composition on the Tableというインスタレーションです。 テーブルの上には天井の液晶プロジェクターから画像が投影されており、 テーブル上のつまみやスライド板を動かすことにより それにあわせて画像が様々に変化したり音が出たりします。 机に計算機画面を投影することにより 計算機と机や紙を融合しようという実世界インタフェースの 研究は数年前から存在しますが、 それが連続的にメディアアートにまで到達したものと いえるかもしれません。
エム・アール・システム研究所は、 Virtual RealityとAugmented Realityを混合した 「Mixed Reality」の研究を行なうために設立された研究所ですが、 岩井氏のようなアーティストも招聘して メディアアートとインタフェースの融合を推進している点が先進的です。
上図は、 MITの石井裕氏が制作したmusicBottleというシステムです。 石井氏は「Tangible Bits」という旗印のもとに 各種の実世界インタフェースシステムを発表していますが、 これはそのひとつで、 ステレオや計算機を使うかわりに 音楽の詰まった「瓶」を使って音楽を楽しもうというものです。 瓶のふたが閉じている時は音楽は聞こえませんが、 楽器や曲などを表現している瓶のふたを開けたり 場所を変えたりするすることにより 様々なやり方で音楽を楽しむことができるようになっています。
ドイツのカールスルーエにある ZKM(Zentrum fu"r Kunst und Medientechnologie)、 オーストリアのリンツにある Ars Electronica Centerと 日本のICCは 世界のメディアアートの三大中心と呼ばれています。 コンピュータグラフィックスの世界的な学会である SIGGRAPHや、 メディアアートのイベントであるArs Electronicaでは 多くの日本人アーティストが活躍しています。 ユビキタスコンピューティングの世界と同じように、 メディアアートの世界でも日本人とヨーロッパ人が 頑張っているようです。 現在の計算機の無骨なインターフェイスを超えた アーティスティックなインターフェイスが 日本から生まれてほしいものです。