今年のCHI2001はシアトルで開催されたこともあり、 マイクロソフトのBill Gates氏がキーノートスピーカとして登場しました。 マイクロソフトは数年前までは学会などにほとんど顔を出すことがありませんでしたが、 最近はMicrosoft Researchという研究所を作って優秀な研究者を沢山集めていますし、 学会発表やスポンサー活動も多くなってきています。 Gates氏もこれからはたびたび学会で講演を行なうつもりなのかもしれません。 今回の講演は、ごく一般的な聴衆を想定したのか、 目新しい発表などはありませんでしたが、 ClearType技術を利用した読書端末「Microsoft Reader」、 ペン型計算機の「TabletPC」、 Notification Platformというアーキテクチャにもとづいて 予定などの重要度を自動的に計算してくれるエージェントシステム「Priority」 などのシステムの紹介を行なっていました。
Microsoft Readerを紹介するBill Hill氏とGates氏
ユーザインタフェースの学会での講演ということを意識してか、 新しい製品や技術の紹介を行なうだけでなく、 マイクロソフトはユーザビリティやアクセシビリティに関しても 真面目に考えているということをGates氏は強調していました。 現在は150人ほどがユーザビリティ関連の仕事にたずさわっているということです。
マイクロソフトのユーザビリティラボ。
鏡の向こうからユーザの計算機操作をモニタできる。
マイクロソフトの製品は実は従来から ユニバーサルデザインに関してかなり注意が払われています。 たとえば、Windowsのコントロールパネルには 「ユーザー補助」という機能が用意されており、 キーボードだけでマウスポインタを操作したり 見易い表示を行なったりできるようになっています。 Microsoftのこのような活動には Greg Vanderheiden氏の功績が大きく、 氏はMicrosoftのユーザビリティの父と呼ばれているそうです。 Vanderheiden氏はCHI2001のクロージングトークを行ない、 ユニバーサルデザインの重用性を訴えていました。 氏によれば 「障害者にとって有用だがモバイルコンピューティングには 役にたたない技術」というものは存在しないそうです。 タイプライタもカーボン紙ももともとは障害者のために 開発されたものだということでした。
Gregg Vanderheiden氏
ちなみに、 「打倒Bill Gates!」をモットーとしている私は 激しく挑戦的な視線を送りながらGates氏の講演を聞いていましたが、 Gates氏が私の挑戦に気付いたかどうかはさだかでありません。
携帯電話のキーを使った「HandyScript」という文字入力手法を シアトルで開発している Ventris社という会社の人の話も聞かせてもらいました。 HandyScriptは、1月号で紹介したOctaveと同じように 文字ストロークの基本形をもとにして文字を入力していく方式です。 たとえば「/」「\」に対応するキーを順番に押すと「A」が入力され、 「\」「/」に対応するキーを順番に押すと「V」が入力されるという具合です。 漢字を含むあらゆる文字に対応できるという主張ですが、 字形を正しく覚えていることが前提になりますし、 「聞」「問」「間」などをどうやって区別するのか難しそうに思えました。 いずれにせよ、テキスト入力はこれからますますホットな研究対象と なっているようです。
ウェアラブル計算機をはじめ、 今後の計算機では 机の上のキーボードとマウス以外の装置を使うのが普通になりますから、 あらゆるインタフェースはTangibleなものになっていくと思われますが、 そのような傾向をうまくネーミングした点は鋭いものがあります。 先月号で紹介したPICNICのような小型計算機を取り付ければ、 いろいろなものを簡単に入出力機器として使うことができ、 Tangibleなインタフェースを簡単に実験してみることができます。
ウェアラブル計算機の行きつくところは、 体に計算機を埋め込んでしまう 「インプランタブル計算機」ということになるわけですが、 ジョージア大学では 本当にこのような実験を行なっているという発表がありました。 障害のために筋肉を全く動かせなくなった患者の脳の ニューロンに電極を接続し、信号を無線で外部に送ることにより 意志疎通を図ることができるのだそうです。 米国でもこのような実験はまだ限られた機関にしか認められて いないということでしたが、このようなサイバーな入出力装置も今後は 夢の話ではなく実現されていくのかもしれません。
脳内装置のブロック図。脳皮と頭蓋の間に埋め込んである。
ポスタ発表風景
Ted Selkerの凝視検出器