界面駭客日記(13) - 続々: モバイル入力手法戦国時代 増井俊之


1月号と4月号で各種の携帯端末向け入力手法を紹介しましたが、 その後も続々と新しい入力手法が提案され、 新しい手法を採用した製品も各種発売されています。 最近開発されたり発売されたりした入力手法をいくつか紹介します。

NEOPAD


NEOPAD[1]は韓国で開発された文字入力手法で、 1月号で紹介したOctaveと同様に、 片仮名やアルファベットの字形をもとにして文字を入力するものです。 アルファベット用のNEOPADは 上図左側のような「|」「⊂」「⊃」などの字形を使用し、 片仮名用のNEOPADでは右側の図のような字形要素を組み合わせて使います。 たとえば、英語版では 「|」「⊃」を続けて押すことにより「P」を入力することができます。

MessageEase


MessageEase[2]も テンキーを使ってアルファベットを高速に入力する手法です。 1〜9のキーを2度押すとa,eなどの頻出文字を入力でき、 1,2,3などのキーを押した後で5のキーを押したり 5のキーを押した後で1,2,3などのキーを押すことにより 頻出文字以外の文字を入力することができます。

HoriKeys


HoriKeys[3]は、 テンキーと傾きセンサを組み合わせることにより、 テンキーをASCIIキーボードのように 使うことができるようにしたシステムです。 テンキーを左に傾けたときは テンキーがQWERTYキーボードの左側部分に対応し、 「Q」「W」「E」などのキーが入力可能になります。 また、右に傾けたときはQWERTYキーボードの右側部分に対応し、 「U」「I」「O」などのキーが入力可能になります。 テンキーを左に傾けて「4」のキーを押すと「A」が入力され、 右に傾けて「4」のキーを押すと「J」が入力されます。 HoriKeysでは、英文字を1文字入力するために キーを複数回押す必要がありません。 HoriKeysのWebページでは使用例を示すムービーが公開されていますが、 これを見る限りかなりの速度で入力を行なうことができるようです。

T9日本語版

1月号で紹介したTegic社のT9[4]は日本語版が登場しました。 日本語版T9では、テンキーに 「あ行」「か行」「さ行」などが割り当てられており、 読みを正確に指定せず曖昧に指定しながら 単語を絞りこんでいきます。 たとえば「今日」と入力したい場合、 「き」「ょ」「う」のように正確に読みを指定せず、 「か行」「や行」「あ行」とだけ指定します。 この結果 「きょう」「きゆう」「こよう」などの 読みの候補が得られますが、その中から 「きょう」を選択した後、漢字変換を行なって 「今日」を選択します。 10月中旬発売のデンソー製のJ-フォン「J-DN31」[5]には 日本語版T9が登載され注目されています。

Touch Me Key


Touch Me Key[6]は東京大学の田中久美子氏が開発した入力方式で、 T9と同じように、 綴りや読みを正確に指定せず曖昧に指定しながら 単語を絞りこんでいく手法です。 Touch Me Keyで「今日」と入力を行なう場合、 「か行」「や行」「あ行」と指定する点は T9と同様ですが、 「今日」「杞憂」「雇用」のような漢字候補を直接 表示して選択可能になっています。 Touch Me Keyでは PPM(Prediction by Partial Match)法という方法で 前の単語列から次の単語を予測することにより、 必要な単語が候補として出現しやすくなるような工夫が なされています。

ThumbSync


ThumbSyncは 株式会社ゼン[7]が開発した、 IBMのトラックポイントのような 多方向操作スティックを用いて文字入力を行ないます。 スティックを上図のように動かすことにより 「A」「B」などの文字が入力することができます。

FrogPad


FrogPad LLC, Incは、 片手で使える FrogPad[8] というキーボードを販売しています。 英語版のFrogPadでは よく使う文字が3×5のキーに割り当てられています。 日本語版では 母音が5列のキーボードに対応するようになっています。

Metropolis Keyboard


Metropoils Keyboardは IBMのアルマデン研究所のShumin Zhai氏の開発した 携帯端末用のソフトキーボード配列です。 QWERTY配列のASCIIキーボードをそのまま ペン端末上のソフトキーボードとした場合、 よく使う文字の並びがばらばらな位置にあることが多いので 無駄にペンを動かす必要があります。 たとえば 「and」のような頻出単語であっても ペンを左右に動かさなければなりません。 Metropolis Keyboardでは、 ペンの動きが最小になるように配列が計算されています。


ドコモの調査によれば、 最近の女子高生は、「か」キーを5回押して「こ」を選択するような 携帯電話のマルチタップ操作を5回の操作とは考えておらず、 単一の操作と考えているのだそうです。 キーを押す回数を減らすために 各種の入力手法が考案されてきているわけですが、 ユーザーがこのような意識を持っているのならば タップ数を減らすための工夫はあまり意味がないことに なってしまいます。 この話を最初に聞いたときは非常に驚きましたが、 よく考えてみると、 PC操作において ダブルクリックを2操作と普通はカウントしないのと 同じことなのかもしれないと思うようになりました。 熟達してくると、数えなくても指が5回上下するように なるのかもしれません。 QWERTY型のキーボードで高速入力が可能なのは 人間が一生懸命練習するからです。 携帯入力の場合も、 「覚えやすいけれども遅い手法」よりも 「多少覚えにくいけれども高速に入力できる手法」の方が 生き残るのかもしれません。 ソフト/ハード技術の工夫と人間の適応能力がうまくマッチした手法が、 携帯入力戦国時代の覇者となることでしょう。

  1. http://www.neopad.com/index_j.html
  2. http://www.messagease.com/
  3. http://www3.ocn.ne.jp/~horikeys/
  4. http://www.tegic.com/
  5. http://www.j-phone-east.com/company/n/2001/010903_4.htm
  6. http://www.ipl.t.u-tokyo.ac.jp/~kumiko/TouchMeKey/TouchMeKey.html
  7. http://thumbsync.xenn.com/
  8. http://www.frogpad.com/
  9. http://www.csl.sony.co.jp/person/masui/OpenPOBox/info/InputMethods.html

Toshiyuki Masui