各種規画の調査や国際交流などのような 地味で重要な活動も行なっていますが、 一般の会員に関係があるのは、 年に2度開催される大規模な研究発表会である全国大会、 分野別に数ヶ月ごとに開催される研究会、 シンポジウム、 論文誌、 学会誌 などでしょう。
計算機関連の研究開発にかかわる人が 最も目にする機会が多いのは 学会誌や論文誌のような印刷物だと思います。 多くの学会では、 一般会員向けの解説や新しい話題を載せた学会誌(Magazine)と、 学術論文を載せた論文誌(Journal)を発行しています。 学会誌は学会の会員全員に配られ、 論文誌は別料金になっていることが多いようです。 大きな学会では、 分野別論文誌(Transaction)を発行しているところもあります。 情報処理学会では学会誌「情報処理」および 「情報処理学会論文誌」を発行していますし、 計算機関連の 世界最大の学会であるACM (Association for Computing Machinery)[*2] では学会誌「Communications of the ACM」(CACM)および 各種の論文誌、分野別論文誌を発行しています。
これに対し、 学会の論文誌はもともと優れた技術情報を流通させるために 発行されているものですから 採録の審査基準が厳しく、何人もの専門家による審査(査読)を パスしたものしか掲載されることがありません。 このため内容には信頼度があり、 論文は大学など多くの研究機関において 最大の業績と考えられています。 一方、審査には時間がかかるのが普通ですし、 採録の際の必要条件が多いため、 面白い技術でも論文として不採録とされてしまうことも しばしばおこります。 たとえば、全体的に新しく面白い技術について述べてあったとしても、 明らかな誤りが含まれていれば論文として採録されることは ありませんし、 査読者の価値基準に合致しない論文も不採録になってしまいます。 Webの基本技術を開発したTim Berners-Leeが 論文を関連学会に投稿したときは あっさり不採録にされてしまったこともあるそうです。
学会の発行する学会誌は 一般雑誌と論文誌の中間にあるといえるでしょう。 論文誌のような査読作業はありませんが、 記事は論文につぐ業績と考えられますし、 執筆から掲載までの期間は数ヶ月ですみます。 具体的な新製品名紹介のような記事は載りませんが、 新しい技術に関して詳しく解説した記事が 数多く掲載されています。
現在使える技術や新製品などの情報については 一般雑誌が最も役にたちますが、 将来実用になってくる面白い技術についての情報を得るためには 一般雑誌よりも学会出版物の方が有用でしょう。 少し先の技術が必要になる場合は多いと思いますので、 学会出版物はもっと活用されてもよい気がします。
学会誌や論文誌も、 従来は紙の雑誌として出版されていましたが、 最近は電子形式で Web上でも公開されることが多くなってきています。 たとえば情報処理学会では、 過去のあらゆる学会誌/論文誌を電子図書館として公開しています[*4]。 内容は会員にしか公開されていませんが、 非会員でも検索や目次閲覧はできるようになっています。 たとえば特集リスト をみると、 ここ1年ほどの「情報処理」では 表1のような特集記事が掲載されていることがわかります。 最近注目されているいろいろな技術に関する 詳しい解説記事が特集されていることがわかるでしょう。
失われゆく情報の復元・保存技術 |
さまざまな次世代GPS測位方式 |
セマンティックWeb |
ユビキタスコンピューティング世界を実現する革新的ネットワーク技術 |
人工現実感手術室 |
インターネットと自動車 |
e-Learningの最前線 |
仮想と現実の融合 |
知られざる計算機 |
ナノテクのトレンド |
ゲノム情報科学 |
ネットワークセキュリティ |
モバイルインターネット |
家庭の情報化 |
大昔の特集でも有用なものがあります。 たとえば、1983年4月号(Vol.24 No.04)の 大特集「アルゴリズムの最近の動向」[*5] では表2のようなアルゴリズムの解説が行なわれています。 このほとんどは現在でも通用するものであり、 アルゴリズム辞典として重宝です。
タイトル | 著者 |
---|---|
計算機内部における数の表現法 | 浜田 穂積 |
整数の乗算法 | 五十嵐 善英 |
行列積の漸近的計算量 | 野崎 昭弘 |
一様乱数の発生法 | 伏見 正則 |
確率的アルゴリズム | 渡辺 治 |
順列の生成法 | 山崎 秀記 |
ソー卜法 | 溝口 徹夫 |
セレクション法 | 野下 浩平 |
ハッシュ法 | 井田 哲雄 |
2分探索木, B-木, k-d木による見出し探索 | 星 守、弓場 敏嗣 |
ゲーム木の探索法 | 実近 憲昭 |
動的記憶領域割付け法 | 佐々 政孝 |
リストのコピー法 | 長谷川 洋 |
シーケンシャル・ガーベジ・コレクション | 黒川 利明 |
並列形ガーベジコレクション | 日比野 靖 |
構文解析 | 井上 謙藏 |
ソースプログラムの高速化 | 石畑 清 |
再帰呼出しの実現法 | 疋田 輝雄 |
再帰呼出しの索表計算法 | 有澤 誠 |
多重環境の制御実現法 | 佐治 信之 |
非決定的アルゴリズム | 中島 秀之 |
オペレーティング・システムのスケジュール法 | 亀田 壽夫 |
仮想記憶のページ管理法 | 益田 隆司 |
分散型アルゴリズムの基礎 | 徳田 雄洋 |
デッドロックへの対策法 | 斎藤 信男 |
分散プロセスの通信方法 | 徳田 英幸 |
文字列のパターンマッチ法 | 花田 孝郎 |
英文清書法の基本操作とアルゴリズム | 古郡 廷治 |
英文綴り検査法 | 川合 慧 |
ファイル間の相違検査法 | 角田 博保 |
グラフの平面性判定法 | 西関 隆夫 |
線形計画問題の高速解法 | 茨木 俊秀 |
定理の自動証明法 | 永田 守男 |
隠面除去アルゴリズム | 今宮 淳美 |
公衆暗号系の実現法 | 西村 和夫 |
保護システムの安全性判定法 | 宮地 利雄 |
VLSI用の行列計算法 | 都倉 信樹、萩原 兼一 |
VLSI CADへの計算幾何学の応用 | 鈴木 則久 |
VLSI用の正規集合認識法 | 安浦 寛人 |
NP完全問題 | 稲垣 康善 |
あつかいにくい問題 | 小林 孝次郎 |
情報処理学会には分野別に沢山の研究会があり、 学会誌や論文誌と同じように、 研究会資料もすべて 電子図書館で公開されています。 従来は、研究会での研究発表につて知るためには 研究会に入会して資料を入手する必要がありましたが、 電子図書館のおかげですべての資料の検索を行なうことが できるようになりました。 内容を閲覧するためには研究会会員になる必要がありますが、 研究会の年会費は3000〜4000円程度ですので、 入会して損はないと思います。
ACMやIEEEのような海外の学会は、 日本の学会よりも前から電子図書館を開設しています。 前述のACMの学会誌CACMは 研究者よりも広い範囲の読者を対象としているようで、 一般の計算機雑誌としても通用するような話題も沢山あります。 たとえば2002年9月号では、 表3のように、 基礎技術から時事問題まで 幅広い話題が掲載されています。
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検索エンジン特集 |
企業におけるITサービスのコスト |
Hubbubでモバイルインスタントメッセージング |
ITプロフェッショナルを永続的に管理する術 |
Webサイトとデータベースの統合 |
ソフトウェアの調査点検を改善する方法 |
知識管理システムの重要な事柄 |
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オブジェクト指向で考えよう |