界面駭客日記(26) - メールで楽々ファイル転送 増井俊之


今更言うまでもありませんが、 電子メールは現代社会の通信のインフラとして定着してきた感があります。 会社の仕事でも日常生活でも メールによる情報交換は非常に基本的なインフラになってしまい、 これが無い生活はもう考えられないといってもいいでしょう。

メールは もともとは研究者や仕事仲間の間の連絡に使われることが 多かったようですが、 最近はメールはあらゆる目的に使われており、 家族の連絡、 宴会の連絡、 メーリングリストによる趣味の情報交換から 迷惑なSPAMに至るまで、 本当に幅広い用途に使われています。

メールが幅広い用途に使われるようになったのは良いことなのですが、 いろいろ無理も出てきているように思われます。 特に気になるのは、メールを処理する場合 メールの内容にかかわらず同じメールソフトが使われる のが普通になっていることです。 メールのメッセージ形式は標準化されているとはいうものの、 仕事で必要なワープロ文章も 宴会の連絡も 家族の連絡も すべて同じメールソフトで処理するというのは かなり無理があるように思われます。

様々な種類のメールを管理するために、 よく使われているメーラは 以下のような機能を持っているのが普通です。

また、メールの内容は仕事などと密接に関連していることが多いので、 以下のような機能もメールソフトに組み入れられていることが 多いようです。 要するに, メールソフトには パソコン上で必要になるあらゆる事務作業と同等の 機能が必要になってしまっています。

パソコン上では沢山のファイルが使われており、 フォルダによるグループ分けや 内容検索などの操作ができるようになっています。 メールメッセージの管理とファイルの管理は似たところも多いのですが、 メールの管理にはメールソフトが使われることが多く、 ファイル管理には一般にデスクトップシェルが使われますから、 同じような処理を異なる環境で実行するのが普通になってしまっています。 自分の予定を捜すという意味では ファイルシステム内のデータを検索するのも メールメッセージを検索するのも同じことのはずですが、 ファイルシステムの検索とメールの検索は 全く異なる操作になってしまっているのは困ったものです。

メッセージの管理やメールの通信インフラは、もはや ファイルシステムと同じ程度に一般的な枠組みであると考えた方が いいのかもしれません。 あらゆるアプリケーションにおいて データの管理にファイルが使われているのと同じように、 あらゆるアプリケーションにおいて 通信管理にメールを使い、 標準的な方法でメッセージ管理ができるようになればいいのかもしれません。

メールの使い方の見直し

ファイルとメールが 完全に同じレベルで管理できるようになるためには まだまだ時間がかかりそうですが、 アプリケーションレベルで メールをファイル並に手軽に扱えるようにすることはできます。

会社で資料を作成する場合など、 ワープロや表計算ソフトのデータをメールに添付して やりとりすることが広く行なわれていますが、 このように メールがファイル転送だけのために使われることが 多いことは若干気になります。 実際に必要な処理は通信相手にファイルを送りつけることだけ である場合でも、 他に適当なファイル転送手段が無いという理由により メールが利用されていることが多いように思われます。 フォルダ間や機器間でのファイル転送と同じぐらいの手間でメールを交換できれば、 メールソフトが必要になる機会は減ると思われます。

「顔アイコン」を使ったファイル転送

メールでファイルを誰かに送ろうとするとき、 現在一般的なメールソフトを使うと、 以下のようにかなり面倒な手順が必要になるのが普通です。
  1. メールソフトを起動する
  2. To: に送り先のアドレスを指定する
  3. メッセージを作成する
  4. 送りたいファイルをメッセージに添付する
  5. メッセージを送信する
このように、 単純にファイルを送るのが目的であるにもかかわらず、 多くの操作が必要になってしまいます。 このような複雑な手順を必要とせずに 目的のファイルを相手に送れるようにするために、 メールでのファイル転送専門の顔アイコンを デスクトップに置くことにより 簡単にメールでファイルを送れるシステムを 同僚の高林哲氏が作成したので紹介します。


図1: デスクトップ上の様々なアイコン

デスクトップ上には 図1のように データ転送などに使われる様々なアイコンがあります。 ゴミ箱やプリンタのように 大抵は送り先がアイコンとして表現されていますから、 そのひとつとして 転送相手の顔をアイコンとして用意しておきます。

顔アイコンで表現される相手にファイルを転送したい場合は、 図2のようにしてDrag & Dropでファイルを顔の上に重ねます。


図2: Drag & Dropによるファイル転送指定

この結果、 指定したファイルがこの顔の相手にメールで送られ、 転送終了後に図3のようなメッセージが表示されます。


図3: ファイル転送終了後のメッセージ

顔データには図4のようにして メールアドレスなどを登録しておきます。


図4: 顔とメールアドレスの設定

このような「顔アイコンシステム」を使うと、 ファイルを誰かに送るときに前述のような複雑な手順は必要なくなり、

という操作だけでよいことになります。

メールへの添付ファイルによるファイル転送の手順は、 ひと昔前にコマンドラインからftpによるファイル転送を行なっていたのと 同じぐらい面倒だといえますが、 「顔アイコン」のようなものを用意すれば メールを使ったファイル転送を デスクトップ上のファイル移動並の使いやすくすることが可能になります。

cdfax

顔アイコンシステムを使えば、 計算機内部のデータをメールに添付して誰かに送ることが簡単できますが、 計算機の外側にあるデータでも 同じような手法で転送を行なうことができるでしょう。 顔アイコンと同じ高林哲氏が開発したcdfaxシステム[*1]は、 送り手のCDトレーにCDを挿入するだけでデータが送り先に転送され、 送り先のCD-Rに焼かれるというシステムです。


図5: cdfaxシステム

現在の実装ではマシン間で直接データを転送していますが、 メールの添付ファイルとしてデータを転送することにすれば より広い環境でこのような形式のデータ転送が可能になります。


今回紹介した例では、 メールのインフラがデータ転送に使われていますが、 一般的なメーラは使用する必要がなく、 データを誰かに送りたいという意図が素直に表現されていると いうことができます。

情報伝達やデータ転送以外にも メールの用途は広がってくることが予測されます。 メールの主要な用途は今後も各種の連絡がメインになると思われますが、 汎用のデータ交換インフラとしてもっと活用することを考えれば さらに幅広い使い方ができるようになるでしょう。 携帯からテレビや冷蔵庫にメールして仕事を頼んだり、 玄関ドアから携帯にメールが届いたりする時代が来るかもしれません。

  1. cdfax: http://www.namazu.org/~satoru/cdfax/

Toshiyuki Masui