Norman氏と同様、使いにくさを発見するのは私も得意である。 機械の使いこなしが苦手だからである。 昔、自分はWindowsの使いにくさをなんとかしたいと思って 研究してるんだと同僚に言ったところ、 Windowsのどこが使いにくいんじゃと不思議がられたことがあった。 そういうWindowsの達人にはWindowsを改良することはできないはずだから、 ものを使うのが苦手であることは インタフェース研究者の資質として重要だろう。 最高の情報整理システムを作れる人がいるとすれば、 システム作りは素晴らしく得意なのに情報整理が絶望的に下手な人間だろう。 そういう人は沢山いそうなものだが、 最高の情報整理システムがまだ出現していないところを見ると、 両方の資質をもつ人は少ないのかもしれない。
「好きこそものの上手なれ」とか「必要は発明の母」と言うが、 実は「苦手は研究の母」なのである。 なんでも得意な人は新発明が苦手なはずである。 ちなみに最高に頭が良い人は工学の研究者には向かないらしい。 何ができて何ができないか最初から予測できてしまうからだという。 苦手がない人は工学の研究には向いていないのかもしれない。
私は奇麗に字や絵を書くのが苦手なので、 優れたエディタや入力システムや出力システムが欲しいといつも思っている。 整理も苦手なので情報整理システムや検索システムを模索しているし、 絵を描くのが苦手だから「お絵描き支援システム」は欲しいと思っている。 しかし楽器は人並に弾けるので「楽器演奏支援システム」が欲しいとは思わない。 私がお世話になっている様々な便利なシステムはみんな 何かが苦手な人達が作ったものなのだろうか。
本物のプログラマはIDEを使わないような気がするし、 Paul Graham氏はオブジェクト指向なんか要らないと言っていた。ような気がする。 バリバリプログラムを書くハッカーにはソフトウェア工学は不要なように思われるが、 これはプログラミングが苦手な人の研究分野なのだろうか。 私はEmacsやTeXや日本語入力システムがなければ全く文章を書くことができないのだが、 こういうのが苦手な人のおかげでこういうシステムが整備されたのだろう。たぶん。
では私は何を研究したらいいのだろう? 苦手な分野を研究対象にしがちだからといっても成果が出るとは限らない。 Norman氏は使いにくさの発見は得意だったものの新製品の設計は苦手だったらしく、 一時勤めていたAppleなどで画期的な製品を出すことには成功しなかった。 アイデア出しが得意な人はアイデア生成支援システムなんか作らないはずだから、 すごいアイデアにもとづいた「アイデア生成支援システム」の登場は期待薄である。 同様に、 金を儲けるのが苦手な私が金を儲けるための研究をしても勝算は低そうな気がする。 コラム作成を支援する「コラム執筆支援システム」か「締切遵守システム」あたりで 我慢しよう。