テレビ画面でWebを楽しむ「ウェブテレビ」というものが注目されたことがありますが、全く流行せずに消えてしまいました。普及しなかった理由はいろいろあるでしょうが、そもそもパソコン上でブラウザを使うときは、前かがみな姿勢で能動的に面白い情報を捜すスタイルが普通なのに対し、テレビというものはソファーにのけぞったり床に寝転がったり、余裕の体勢で受動的に利用するのが普通ですから、両者を同じ機械で扱うというのはそもそも無理があったような気がします。
パソコン上でも何もかも能動的に操作をするのが良いわけではありません。プログラムを起動して時刻を知るよりも画面のどこかに時計を表示しておく方が楽ちんですし、最近は「Widget」を使って天気やニュースなど画面に様々な情報を常に表示させている人もいます。こういう便利系の機能だけでなく、ぼーっと見ていても楽しめる面白系の機能があれば、能動的に頑張らなくてもネットを活用することができるようになるでしょう。レストランでメニューを読んで料理を注文するのは面倒ですが、飲茶や回転寿司のように勝手に出てきた料理を食べるのは簡単です。パソコンでややこしい操作をするのは面倒ですが、面白い情報が自動的に出現するようであれば、何も操作する必要が無いので楽ちんです。
このような受動的なインタフェースについて、様々な研究が行なわれています。たとえば、何も操作しなくても面白い情報をみつけたり写真を楽しんだりすることができる眺めるインタフェースというものが提案されています。下図のMemoriumは眺めるインタフェースの実装のひとつで、キーワードとそのGoogle検索結果が画面上を浮遊し、ぶつかったキーワードから新たな検索が実行されるという動作が繰り返されるうちに、関連ある情報や思いがけない情報が自動的に表示されるようになっています。自動的に表示される情報をぼーっと見るのは癒し系システムとしても使えるかもしれません。
■表示対象の選択
Memoriumでは検索結果を表示するようになっており、また写真などを自動的に表示するスクリーンセーバもよく使われていますが、検索結果や自分の写真はあまり面白い情報ソースとはいえません。テレビ番組のように、次から次に新しく面白い画面が表示されて欲しいものです。面白いWebページを自動的に表示し続けるシステムがあれば、テレビ程度に楽しむことができるようになるかもしれません。
様々なWebページをランダムに表示しても面白いとは思えませんが、最近は面白いブログなどの更新情報がRSSとして配信されていますし、面白さがブックマークの数としてすぐわかるようになりましたから、このような人力パワーを利用することによって、新しくて面白いWebページを自動的に選んで眺めることができるようになってきました。人力パワーを利用したサービスは今後も増えるでしょうから、他力本願で受動的な楽しみ方がこれから期待されます。
というわけでRSSで配信されたWebページをテレビのように眺めるFeedTVというサービスを試作してみました。“masui”というIDを使う場合、http://feed-tv.com/masuiのようなページに受信したいRSSを登録しておけば、下図のようにhttp://feed-tv.com/masui/playにアクセスしてページを自動的に再生することができます。画面ではSlashdotが表示されていますが、数秒ごとに異なるページが順番に表示されます。気のきいたネットウォッチャーのブックマークを登録しておけば、そのウォッチャーが気に入ったページをぼーっと眺められるようになります。
■能動と受動の切り換え
受動的に眺めていた情報をもっと詳しく見たくなることもありますし、つまらなければさっさと次のページに移ってほしい場合もあります。FeedTVでは、再生/停止ボタンの他に「保存」「捨てる」「あとで読む」「これはひどい」というボタンでページを評価できるようになっています。普段は順番にページを表示し続けますが、これらのボタンが押されると以下のような判定を行ない、ブックマークしたり再表示を制御したりします。こういう情報を人力で追加したものが沢山集まれば人力パワーをさらに有効利用できるはずです。
| 重要度 | 再表示の必要性 |
---|
保存 | ◎ | △ |
捨てる | × | × |
あとで読む | ◯ | ◯ |
これはひどい | × | △ |
(操作なし) | ? | ◯ |
いちいちボタンを押すのは面倒なので、センサを活用してこういう意図を簡単に伝えられるようにしておくとよさそうです。下の写真はパソコンの下に体重計を置くことで実装した気合いブックマークシステムです。面白いページを見たとき「おおっ」と身をのり出して体重計に4Kg以上の重みがかかると、現在見ているページがブックマークされるようになっています。このような自然な行動で「これはひどい」などを表現できるセンサを用意すればいいでしょう。
■Calm Technology
ユビキタスコンピューティングの提唱者であるMark Weiserは、計算機が自己主張することなく人間をサポートするCalm Technologyがこれから重要であると主張していました。身の回りの機械は人間が能動的に操作しなければ使えないものがほとんどですが、何も考えなくても便利に使える自働ドアのようなシステムもあるわけですから、「使いやすい機械」について考える前に、「人間がぼーっとしてても役にたつ機械」の可能性を考えることが重要かもしれません。