増井俊之の「界面潮流」

「界面」=「インタフェース」。ユーザインタフェース研究の第一人者が、ユビキタス社会やインターフェース技術の動向を読み解く。

第12回 ネット集権主義

2007年10月12日

(これまでの増井俊之の「界面潮流」はこちら)

ネットが便利になるにつれて、様々なデータをネット上で管理する機会が増えてきました。私はメールをIMAPで管理しているので、サーバ上のメールはどこからでも読むことができます。重要な文書はCVSSubversionを使ってネット上のリポジトリで集中管理しているので、どこのマシンでもダウンロードして編集することができます。ネット上に置いたデジカメ写真は自分コンテンツとして楽しんでいますし、自宅サーバ内の映画や音楽データはiTunesなどで共有して利用しています。私の論文/記事/プレゼン資料などはすべて自分のサイトで公開しています。各種の共有サービスをうまく使うことにより、誰でも簡単に情報をネット上で管理することができるようになってきたといえるでしょう。

ネット上でデータを管理することには多くのメリットがあります。データを一元化できるので混乱が減りますし、どこでもデータを参照したり見せたり共有したりすることができます。JavaScriptやFlashなどのプログラムをネット上に置いておけばどこでもシステムのデモを見せることができます。ローカルマシンで編集/作成した情報をネット上で保存/公開するという方法はかなり普及してきたといえるでしょう。ネットになかなかつながらない状況だとデータ保存や閲覧ができないのが問題ですが、時々は確実にネットに接続できる状況であればこのような運用方法が良いようです。一方、常にネットに接続している環境であれば、ネット上で提供されているワープロや表計算ソフトなどを利用して、データの編集や作成もすべてネット上で行なうという方法が今後有利になってくるでしょう。

■小さなデータの扱い

大きな文章/プログラム/図表のように、こまめに編集が必要で気合いが入った管理が必要なデータについては、今のところはローカルマシンで編集する方が楽なので、もっぱら保存と共有のためにネットを利用するという使い方が続くと思われますが、ちょっとしたメモのような小さなデータについては最初からネット上で作成/編集する方が便利です。パソコンにメモを書いたとき、別のマシンからそのデータにアクセスできなくて困ったり、そもそもどのマシンのどこに書いたのかわからなくなってしまうことがよくありますから、小さなメモなどもネット上で一元管理したいものですが、そのようなステムは何故かあまり普及していないようです。私は、ローカルマシンで書いた小さなメモは日付/時間情報をつけてネットにアップロードすることによって一元管理するようにしているのですが、いちいちアップロードするのは面倒ですし、アップロードを忘れてしまうこともあります。そもそも最初から直接ネット上で編集するとかすれば面倒なことを考える必要が無くなるでしょう。

■Wikiによるメモ管理

私はここ数年ずっとWikiを使ってメモを管理しています。Wikiは複数ユーザで情報を共有するために使うのが普通ですが、ブラウザを使ってネット上で情報管理ができるという利点があるので、個人的なメモとして使うのにも便利です。

下図は、私が個人的に使っているWikiと同じ原理で動いているWeb単語帳です。ネットで読んだ記事中に知らない単語があったとき、ネットで単語の意味を調べ、ネットに登録して勉強に利用するという使い方ができます。単語から写真検索を行ない、関連した画像を登録しておけば、その印象を使って単語を記憶しやすくなります。

inundate1.png

一般的なWikiでは、編集モードでデータを編集してから書込み操作を行なう必要があるので面倒ですが、Web単語帳ではクリックされた行は以下のように編集可能になり、編集結果がすぐに書き込まれるようになっています。メモ書きの場合はこのような手軽さが重要でしょう。

inundate2.png

いつでもどこでもネットに確実に接続できる時代になれば、メモもメールも文書もネット上で書き始めるようになるかもしれません。ネット上の様々なデータを簡単に操作したり編集したりする方法は今後ますます重要になってくるでしょう。

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プロフィール

1959年生まれ。ユーザインタフェース研究。POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発。ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Apple Inc.など勤務を経て現在慶應義塾大学教授。著書に『インターフェイスの街角』などがある。

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