増井俊之の「界面潮流」

「界面」=「インタフェース」。ユーザインタフェース研究の第一人者が、ユビキタス社会やインターフェース技術の動向を読み解く。

第29回 誤魔化す!技術

2009年1月22日

(これまでの増井俊之の「界面潮流」はこちら

「誤魔化す」という言葉には悪いイメージがありますが、「情報隠蔽」というと多少聞こえが良くなるかもしれません。森の中に木を隠すという記事で、普通の画像やテキストの中に秘密情報を隠すステガノグラフィーという技術を紹介しましたが、これは内容を誤魔化すことにより秘密を守る技術の一例といえるでしょう。

公開情報を隠す!技術

非公開の秘密情報は、普通に暗号化したりステガノグラフィーを利用したりして隠すことができますが、いったん表に出てしまった情報を後から隠すのはなかなか大変です。情報そのものを消すことは不可能ですから、なんらかの方法によってその情報の内容を誤魔化す方法が必要になります。

正しい情報と似て非なる情報を大量に提供する狼少年メソッドを使えば、どれが正しい情報なのか判別不能にすることができます。

たとえば、内容に問題があるメールを間違って送ってしまった場合、内容が少しずつ違うメールを大量に送りつければ、どれが最初のメールなのかわからなくなってしまうかもしれません。

また、パスワードを漏洩してしまった場合は、異なるパスワードを同じように漏洩させてしまえば、悪用される危険が減るかもしれません。

文字を隠したいときは別の文字を上書きするのが効果的です。左の「増井」のような文字を手っ取り早く隠したい場合、斜線を引いたりするよりも、右のように別の文字を上書きする方が読みにくくなります。

文具用品のプラスステーショナリー株式会社は、葉書などに印刷された住所や名前のような個人情報を読めなくするためのケシポンというスタンプを販売しています。ケシポンは下のようなパタンをもつスタンプです。

左のような文字の上にケシポンを押すと右のようになり、確かに文字がかなり読みにくくなることがわかります。

一方、前述の「増井」という文字の上にケシポンを押した場合は下図のようになりますが、この場合は目を細めると読めてしまうようです。大きさや字体が隠したい文字に似ているものを選ぶ必要があるようです。

忘れる!技術

世に出た情報はこのような攪乱戦術で誤魔化せることもありますが、自分の頭の中の情報を消すには忘れる!技術が必要です。

情報を整理したり記憶したりする方法に関しては沢山のライフハック技法が提案されていますし、計算機を利用すれば無限に情報を記憶することができますが、不要な情報を頭の中から消すにはどうすればよいのでしょうか。私の場合、嫌な記憶を忘れるために以下のようなことを実践しています。

  • 嫌なことを思い出しそうになったら即座に別のことを考える
  • 後で読んだとき嫌な気分になりそうな情報は記録に残さない

幸い私は忘却力にはかなり自信があり、放っておけば大事なことでもすぐに忘れてしまいますから、これらについて気をつけるだけで嫌な記憶に悩むことはほとんどありません。私ほど忘却力を持たない人でも、努力によって何かを忘れることは可能だと思います。

各種の誤魔化す!技術を活用することにより、困った情報も嫌な記憶もクリアして、悩みのない生活を送りたいものです。

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プロフィール

1959年生まれ。ユーザインタフェース研究。POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発。ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Apple Inc.など勤務を経て現在慶應義塾大学教授。著書に『インターフェイスの街角』などがある。

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