- 著者
- K. M. Fairchild, S. E. Poltrock, G. W. Furnas
- 編者
- R. Guindon
- タイトル
- SemNet: Three-dimensional graphic representation of
large knowledge bases
- 書籍
- Cognitive Science And Its Applications For
Human-Computer Interaction
- ページ
- 201-233
- 日時
- 1988
- 出版
- Lawrence Erlbaum Associates
- コメント
- 3次元情報視覚化の先駆的研究は,米国MCC (Microelectronics and Computer
Technology Corporation) で開発されたSemNetである.SemNetは
Prologで記述された大規模知識ベースの効率的検索および保守に,知識要素をノー
ド,知識要素間の関係をリンクとするグラフ表現を用いた3次元視覚化を採用した.
SemNetは大量のノードの視覚化を可能とするとともに,2次元グラフにおいて一般
に生じるリンク同士の交差を回避した.しかしその一方で,SemNetは3次元視覚化
が持つ以下のような本質的問題に直面することとなった.
知識要素の配置
知識要素をランダムに配置すると,得られるグラフは複雑な巨大迷路のようになり,
ユーザはこのグラフからなんら有益な情報を得ることはできない.単純な3次元化
は巨大な知識ベースを巨大な3次元グラフにマップするだけなのである.
これに対しSemNetは以下の配置手法を用いて,大規模知識ベースになんらかの``形''
を与えようとした.
- マッピング関数
知識要素をその属性に基づきxyz軸に割り当てる.
- 多次元尺度法
多次元尺度法のKruskalのアルゴリズム\cite{kruskal64a,kruskal64b}を用いて知識要素を配置する.
- 発見的手法
中心化手法,焼き鈍し法という2つの発見的手法を用いて,リンク接続された要素同士が近くに配置されるようにする.
- ユーザによる配置
マウスを用いて特定の知識要素を希望する位置に動かす.
表示図素数の削減
3次元の採用によって2次元に比べはるかに多くの知識要素を表示できる
ようになった.しかし,表示図素数の増大は2つの問題を引き起こした.第1はグ
ラフィックスの表示速度の低下である.3次元グラフィックスでは,画面の更新速
度は描画されているポリゴン数にほぼ比例して増大する.したがって,静止した図
を見るのには問題ないが,3次元オブジェクトや視点のスムーズな移動が要求され
る場合にはこれがネックとなる.第2の問題点は人間の認知負荷が高まることであ
る.人間は図から一度に多くの情報を獲得できるが,表示される情報量が多すぎる
と図は逆に人間の認知を妨げる.
これに対しSemNetは以下の手法により表示情報量の削減を行った.
- 空間クラスタリングに基づくFisheye View
空間クラスタリングとはCADで利用されるオクトツリーの考え方を利用したもので,
SemNetの表示領域である3次元立法空間を8個の部分立方体に分割し,得られた部
分立方体をさらに8分割する.次に各知識要素をそれらが含まれる部分立方体の子
ノードとした木を作成する.そして,現在ユーザが存在する部分空間を着目点とし
てFisheye Viewを適用し,ある閾値以下のクラスタに含
まれるノードは消去し,単にクラスタの存在を示すノードのみを指標として表示し
た.この手法はユーザの着目点のあるクラスタは詳細に、それ以外は指標のみを表
示できるが,着目点がクラスタ間を移動する際に表示の不連続な変化が起こり,ユ
ーザの認知を著しく妨げるという問題点がある.
- リンクの表示
巨大知識ベースを視覚化した場合,ノード数の増加もさることながら,リンク数の
増大が問題となる.これらは後方に存在するノードの表示を妨害するとともに,ノ
ード同様画面更新速度を低下させるからである.これに対しSemNetでは,リンクの
始点ノードが表示されている場合にはリンクを表示するという戦略を用いてリンク
数の削減を行った.
位置の制御
第3の問題点は3次元空間における視点の移動(Navigation)である.SemNetは複雑
な3次元空間での視点移動に以下の手法を用意した.
- 相対移動
ユーザの視線に沿った前後移動,及びロール,ピッチ,ヨーの回転を行う.しかし,
この手法ではユーザは3次元空間において容易に迷子になり,かつ移動速度が遅い.
- 絶対移動
xy平面とyz平面への2つの2次元投影図を用意し,各平面図上において自分の位置
を示すマーカを動かすことで3次元空間における絶対移動を行う.この手法の問題
点は,正確な位置への移動が困難なことと,3次元空間を2つの2次元図に投影す
ることによって生じるユーザの認知負荷の増大である.
- テレポーテーション
最近たどった知識要素の履歴を保持し,これらを選択することで以前いた位置に瞬
時に戻ることができる.
- 超空間移動
現在選択されている知識要素にリンク接続されている要素を一時的にその近くに配
置し表示する.この機能が解除されるか別のノードが選択されると知識要素は元の
位置に戻り,別のノードが選択された場合,視点もそのノードにしたがって移動す
る.
これらの3次元空間視点移動により明らかとなった重要な問題点の1つは,3次元
空間における迷子問題である.3次元空間を自由に動き回らせると、ユーザは容易
に迷子となる。Poltrockはこの迷子問題がSemNetにおける最大の問題であったと述
べている\cite{poltrock}.また,この問題に関しては\cite{darken}でも詳細に述
べられている。
結果的にSemNetが明らかにした3次元の利点は,大規模データの表示とリンク交差
の回避であるが,SemNetの真の意義は大規模知識ベースの視覚化を通じて,(1)
3次元空間での配置;(2)表示図素数の増加;(3)3次元空間とのインタラク
ション;という3次元視覚化が持つ本質的な問題点を明らかにした点である.
(小池氏による)
- 披参照文献
- Exploring Large Hyperdocuments: Fisheye Views of
Nested Networks
- カテゴリ
- Visualization
Category: Visualization
Comment: 3次元情報視覚化の先駆的研究は,米国MCC (Microelectronics and Computer
Technology Corporation) で開発されたSemNetである.SemNetは
Prologで記述された大規模知識ベースの効率的検索および保守に,知識要素をノー
ド,知識要素間の関係をリンクとするグラフ表現を用いた3次元視覚化を採用した.
<br>
SemNetは大量のノードの視覚化を可能とするとともに,2次元グラフにおいて一般
に生じるリンク同士の交差を回避した.しかしその一方で,SemNetは3次元視覚化
が持つ以下のような本質的問題に直面することとなった.
<br>
<font size=+1><b>知識要素の配置</b></font><br>
知識要素をランダムに配置すると,得られるグラフは複雑な巨大迷路のようになり,
ユーザはこのグラフからなんら有益な情報を得ることはできない.単純な3次元化
は巨大な知識ベースを巨大な3次元グラフにマップするだけなのである.
<br>
これに対しSemNetは以下の配置手法を用いて,大規模知識ベースになんらかの``形''
を与えようとした.
<ul>
<li>マッピング関数 <br>
知識要素をその属性に基づきxyz軸に割り当てる.
<li> 多次元尺度法 <br>
多次元尺度法のKruskalのアルゴリズム\cite{kruskal64a,kruskal64b}を用いて知識要素を配置する.
<li> 発見的手法 <br>
中心化手法,焼き鈍し法という2つの発見的手法を用いて,リンク接続された要素同士が近くに配置されるようにする.
<li>ユーザによる配置
マウスを用いて特定の知識要素を希望する位置に動かす.
</ul>
<font size=+1><b>表示図素数の削減</b></font><br>
3次元の採用によって2次元に比べはるかに多くの知識要素を表示できる
ようになった.しかし,表示図素数の増大は2つの問題を引き起こした.第1はグ
ラフィックスの表示速度の低下である.3次元グラフィックスでは,画面の更新速
度は描画されているポリゴン数にほぼ比例して増大する.したがって,静止した図
を見るのには問題ないが,3次元オブジェクトや視点のスムーズな移動が要求され
る場合にはこれがネックとなる.第2の問題点は人間の認知負荷が高まることであ
る.人間は図から一度に多くの情報を獲得できるが,表示される情報量が多すぎる
と図は逆に人間の認知を妨げる.
<br>
これに対しSemNetは以下の手法により表示情報量の削減を行った.
<ul>
<li> 空間クラスタリングに基づくFisheye View <br>
空間クラスタリングとはCADで利用されるオクトツリーの考え方を利用したもので,
SemNetの表示領域である3次元立法空間を8個の部分立方体に分割し,得られた部
分立方体をさらに8分割する.次に各知識要素をそれらが含まれる部分立方体の子
ノードとした木を作成する.そして,現在ユーザが存在する部分空間を着目点とし
て<a href="#Furnas_FisheyeView">Fisheye View</a>を適用し,ある閾値以下のクラスタに含
まれるノードは消去し,単にクラスタの存在を示すノードのみを指標として表示し
た.この手法はユーザの着目点のあるクラスタは詳細に、それ以外は指標のみを表
示できるが,着目点がクラスタ間を移動する際に表示の不連続な変化が起こり,ユ
ーザの認知を著しく妨げるという問題点がある.
<li> リンクの表示 <br>
巨大知識ベースを視覚化した場合,ノード数の増加もさることながら,リンク数の
増大が問題となる.これらは後方に存在するノードの表示を妨害するとともに,ノ
ード同様画面更新速度を低下させるからである.これに対しSemNetでは,リンクの
始点ノードが表示されている場合にはリンクを表示するという戦略を用いてリンク
数の削減を行った.
</ul>
<font size=+1><b>位置の制御</b></font></br>
第3の問題点は3次元空間における視点の移動(Navigation)である.SemNetは複雑
な3次元空間での視点移動に以下の手法を用意した.
<ul>
<li> 相対移動<br>
ユーザの視線に沿った前後移動,及びロール,ピッチ,ヨーの回転を行う.しかし,
この手法ではユーザは3次元空間において容易に迷子になり,かつ移動速度が遅い.
<li> 絶対移動 <br>
xy平面とyz平面への2つの2次元投影図を用意し,各平面図上において自分の位置
を示すマーカを動かすことで3次元空間における絶対移動を行う.この手法の問題
点は,正確な位置への移動が困難なことと,3次元空間を2つの2次元図に投影す
ることによって生じるユーザの認知負荷の増大である.
<li> テレポーテーション <br>
最近たどった知識要素の履歴を保持し,これらを選択することで以前いた位置に瞬
時に戻ることができる.
<li> 超空間移動 <br>
現在選択されている知識要素にリンク接続されている要素を一時的にその近くに配
置し表示する.この機能が解除されるか別のノードが選択されると知識要素は元の
位置に戻り,別のノードが選択された場合,視点もそのノードにしたがって移動す
る.
</ul>
これらの3次元空間視点移動により明らかとなった重要な問題点の1つは,3次元
空間における迷子問題である.3次元空間を自由に動き回らせると、ユーザは容易
に迷子となる。Poltrockはこの迷子問題がSemNetにおける最大の問題であったと述
べている\cite{poltrock}.また,この問題に関しては\cite{darken}でも詳細に述
べられている。
<br>
結果的にSemNetが明らかにした3次元の利点は,大規模データの表示とリンク交差
の回避であるが,SemNetの真の意義は大規模知識ベースの視覚化を通じて,(1)
3次元空間での配置;(2)表示図素数の増加;(3)3次元空間とのインタラク
ション;という3次元視覚化が持つ本質的な問題点を明らかにした点である.
(<a href="http://www.vogue.is.uec.ac.jp/~koike/">小池氏</a>による)
Bibtype: InBook
Pages: 201-233
Author: K. M. Fairchild
S. E. Poltrock
G. W. Furnas
Booktitle: Cognitive Science And Its Applications For
Human-Computer Interaction
Editor: R. Guindon
Title: {SemNet}: Three-dimensional graphic representation of
large knowledge bases
Year: 1988
Date: 2003/08/01 04:59:49
Publisher: Lawrence Erlbaum Associates